HOMEOrientation FLSについて知るFLSが必要とされる背景
FLSについて知る
FLSが必要とされる背景
脆弱性骨折後は二次骨折リスク、死亡リスクが高まります。
そのため、大腿骨近位部または椎体に脆弱性骨折の既往がある場合は、骨密度測定値に関わらず骨粗鬆症と診断され、薬物治療を開始することとされています。
しかし、大腿骨近位部骨折後1年間に骨粗鬆症の薬物治療を行っていたのは、約20%との報告があります。
FLSチームの介入によって一人でも多くの脆弱性骨折の患者さんが適切に骨粗鬆症と診断・治療され、二次骨折を予防することが求められています。
Johnell O, et al: Osteoporos Int 15: 175-179, 2004
Soen S, et al: J Bone Miner Metab 31: 247-257, 2013, 宗圓聰ほか: Osteoporosis Jpn 21(1): 9-21, 2013, [原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)]
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. 東京, ライフサイエンス出版, p63, 2015
Hagino H, et al: Calcif Tissue Int 90: 14-21, 2012
脆弱性骨折と二次骨折リスク
一度脆弱性骨折を起こすと二次骨折を起こすリスクが高まることがわかっています。
FLSは二次骨折予防のための取り組みであり、骨折の連鎖を断つことを目的としています。
下の図は、初回骨折の部位別に二次骨折の危険性を検討した調査の結果です。
椎体や大腿骨近位部の骨折を起こしたことのない女性と比較して、骨折を起こしたことのある女性では二次骨折の危険性が高まることが示されました。
なかでも、大腿骨近位部骨折では二次骨折のリスクが、骨折したことのない女性の16.9倍にのぼります。
このことから、脆弱性骨折後は次の骨折を起こさないようにすることが非常に重要です。
Johnell O, et al: Osteoporos Int 15: 175-179, 2004
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脆弱性骨折と死亡リスク
さらに、脆弱性骨折は死亡率に影響を及ぼすことが知られています。
脆弱性骨折後の患者さんを5年間追跡し、骨折の部位別に死亡率を調査しました。
その結果、大腿骨近位部骨折の患者さんと椎体骨折の患者さんの死亡率は、1年後でそれぞれ約20%、約30%、5年後ではそれぞれ約60%、約70%と、他部位の骨折と比較して高いことがわかりました。
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二次骨折と死亡リスク
続いて下の図は、大腿骨近位部骨折と死亡率の関係を調査した結果です。
2006年~2008年に大腿骨近位部骨折の治療を行った患者さんを2010年に調査したところ、片側のみの骨折例の死亡率は9.9%でした。
一方、両側の骨折例での死亡率は26.7%であり、大腿骨近位部の片側を骨折した患者さんより、両側を骨折した患者さんの方が死亡率が高いことが示されました。
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ここまでで示してきたように、二次骨折を予防することは非常に重要な意義がありますが、そのためには、まず骨粗鬆症の診断基準および治療開始基準をしっかり把握しておく必要があります。
骨粗鬆症の診断基準
「原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)」(日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会合同による原発性骨粗鬆症診断基準改訂検討委員会)によると、原発性骨粗鬆症は、脆弱性骨折の有無と骨密度により診断する、としています。
以下の場合は骨粗鬆症と診断します。
- 椎体または大腿骨近位部の脆弱性骨折がある場合
- その他の脆弱性骨折があり、骨密度がYAMの80%未満の場合
- 脆弱性骨折がないが、骨密度がYAMの70%以下または-2.5SD以下の場合
YAM:Young Adult Mean
若年成人平均値。腰椎では20~44歳、大腿骨近位部では20~29歳の健康な女性の骨密度平均値を100%として、それに対して何%である
かを比較するための指標。
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骨粗鬆症の治療開始基準
大腿骨近位部または椎体に脆弱性骨折がある場合、薬物治療を開始することが「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」に示されています。
また、その他の脆弱性骨折(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨)があり、骨密度がYAMの80%未満である場合にも、薬物治療を開始します。
なお、脆弱性骨折を起こしていなくとも、骨密度が低い場合は、FRAX®による10年間の骨折確率や大腿骨近位部骨折の家族歴をもとに、薬物治療開始の判断をします。
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脆弱性骨折後の骨粗鬆症治療の現状
先のように、大腿骨近位部骨折または椎体骨折がある場合は骨密度測定値に関わらず「骨粗鬆症である」と診断し、薬物治療を開始することがガイドラインに示されています。
一方で、大腿骨近位部骨折の患者さんを対象に調査した結果では、退院後一年間における骨粗鬆症の薬物治療率は約20%にとどまっていました。
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」に、大腿骨近位部または椎体の脆弱性骨折を起こした患者さんは骨粗鬆症と診断され、薬物治療を開始すると定められているにもかかわらず、大腿骨近位部骨折後、骨粗鬆症の治療が行われていない患者さんが非常に多いことがわかります。
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FLSの導入による効果
骨粗鬆症の治療開始率と治療継続率への影響
フランスで、脆弱性骨折で入院し、FLSに紹介された50歳以上の患者さんを対象に調査した結果によると、骨粗鬆症の治療開始率は90%を超え、フォローアップ期間後の治療継続率は67.7%でした。
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本邦における骨粗鬆症の治療開始率への影響
FLSの導入によって骨粗鬆症の治療開始率が上昇することが報告されています。
富山市民病院で大腿骨近位部骨折患者を対象に、多職種連携チームによる二次骨折予防を評価したところ、入院時の骨粗鬆症の治療率は平均23%でしたが、退院時では平均89%と、高い治療率でした。
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本邦における骨粗鬆症の治療継続率への影響
FLSの導入は、骨粗鬆症の治療継続率にも好影響があることが報告されています。
新潟リハビリテーション病院に入院した大腿骨近位部骨折の患者さんのうち、FLSの同意を取得した88名を対象に3年間にわたり追跡調査を行ったところ、骨粗鬆症の治療継続率は70%以上と、高い継続性が得られました。
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FLSは、二次骨折を予防し骨折の連鎖を断つ取り組みである