HOMEClassroom FLSのための基礎知識骨粗鬆症の治療
FLSのための基礎知識
骨粗鬆症の治療
骨粗鬆症の薬物治療開始基準
骨粗鬆症の薬物治療開始基準
大腿骨近位部や椎体に脆弱性骨折がある場合、薬物治療を開始することが「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」に示されています
また、その他の脆弱性骨折(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨)があり、骨密度がYAMの80%未満である場合にも、薬物治療を開始します。
なお、脆弱性骨折を起こしていなくとも、骨密度が低い場合は、FRAX®による10年間の骨折確率や大腿骨近位部骨折の家族歴をもとに、薬物治療開始の判断をします。
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骨粗鬆症の薬物療法
骨粗鬆症の治療薬
骨粗鬆症の薬物治療には、骨を壊す働きを抑えるビスホスホネート薬、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、骨を作る働きを高める副甲状腺ホルモン薬、骨代謝のバランスを整えるビタミンD3薬などがあります。
以下は、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版に記載の骨粗鬆症治療薬の有効性の評価一覧です。
評価Aは、骨密度の「上昇効果がある」、椎体、非椎体、大腿骨近位部それぞれについての骨折を「抑制する」という有効性が報告されているものです。
結合型エストロゲン、アレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブは、骨密度、椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折に対して、すべてA評価です*。
これら以外にも、ビスホスホネート薬のゾレドロン酸や、新しくヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体のロモソズマブなどの薬剤も登場しています。
* 結合型エストロゲンは骨粗鬆症では保険適用外
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また、日本整形外科学会骨粗鬆症委員会、骨粗鬆症性椎体骨折診療マニュアルワーキンググループが発表した「骨粗鬆症性椎体骨折診療マニュアル」では、次のように示されています。
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骨粗鬆症の運動指導
運動指導の目的
運動指導の主な目的は、骨密度の上昇や背筋強化、転倒予防などにより、骨折予防に寄与することです。骨粗鬆症の治療の一環として、薬物治療に加え、運動指導が推奨されており、多くのシステマティックレビューによって、骨密度の上昇や骨折の抑制に効果があると報告されています。
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運動指導の方法
骨粗鬆症の運動指導としては、骨密度を上昇させるための有酸素荷重運動・筋力訓練、椎体骨折を予防するための背筋強化訓練、転倒を予防するための筋力訓練・バランス訓練などがあります。
骨粗鬆症の運動療法は、患者さんの年齢をはじめ、活動性、転倒リスクや骨粗鬆症の重症度などを考慮した上で選択することが大切です。
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骨密度の上昇が示されている運動の例
ウォーキング
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椎体骨折発生率の減少が示されている運動の例
背筋強化訓練
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転倒予防の効果が示されている運動の例
片脚起立訓練
太極拳
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版 .
東京 ,ライフサイエンス出版 , p80-81, 2015
転倒予防
転倒の危険因子
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」では、転倒の危険因子として、転倒の既往、歩行能力の低下、特定薬物の服用などが挙げられています。
大腿骨近位部骨折のほとんどは転倒によって発生します。
日本整形外科学会が行った全国調査によると、大腿骨近位部骨折の受傷原因の約80%が立った高さからの転倒であり、受傷場所の約70%が屋内でした。
そのため転倒予防は、骨粗鬆症治療対象の患者さんの二次骨折リスクを低減する基本的な介入として、薬物治療に加えて推奨されています。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版 .
東京 , ライフサイエンス出版 ,p48, p56, 2015
萩野浩:Bone Joint Nerve 8(3): 369-373, 2018
日本骨粗鬆症学会、日本脆弱性骨折ネットワーク.日本版 二次骨折予防のための骨折リエゾンサービス(FLS)
クリニカルスタンダード 第 3 版 , 2020
転倒リスク評価
転倒の危険因子は、転倒リスク評価表を使って評価することができます。
厚生労働省による介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)では、転倒リスク評価表の合計が10点以上であれば、転倒・骨折対策プログラムを検討するとしています。
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転倒予防の対策
高齢者の転倒は、家の中で多く発生しています。
転倒を防ぐために家の中の環境整備が大切です。
玄関
- 手すりをつける
- 段差をなくす
- 踏み台をつける
- 玄関マットを置く場合にはへりを固定する
居間・寝室
- 整理整頓する
- すべったりつまずきやすいものを床に置かない
- コード類は、壁沿いにするか敷物の下にしまう
- 敷物を固定(除去)する
- 敷居の段差を解消する
浴室
- ドアは外開きやスライド式にする
- すべり止めマットを敷く
- 手すりをつける
- 明るくする
トイレ
- 洋式トイレにする
- ドアは外開きや引き戸にする
- 手すりをつける
廊下・階段
- すべり止めをつける
- 手すりをつける
- 足もと灯をつける
鳥羽研二監修:高齢者の転倒予防ガイドラインメジカルビュー社:P38-42, 2012
萩野浩編:医療・介護スタッフのための高齢者の転倒・骨折予防
〜転ばぬ先の生活指導〜医薬ジャーナル社:P153-163, 2015 を参考に作成
骨粗鬆症の食事指導
骨粗鬆症の食事で気を付けるべきポイント
骨粗鬆症の治療の一環として推奨されている食事指導では、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKを十分に摂るとともに、エネルギーおよび栄養素をバランスよく摂ることが基本とされています。
カルシウムの摂取量が少ない場合に骨折の発生が多いこと、カルシウムとビタミンDを組み合わせることにより骨密度上昇効果、骨折予防効果が期待できることが示されています。
一方、リン、食塩、カフェイン、アルコールの過剰な摂取は控えるように心掛けます。
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骨の健康に必要な栄養素
骨粗鬆症の治療のために摂取が勧められている栄養素の推奨摂取量は以下となります。
食事指導における評価はいずれもグレードBとなっています。
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カルシウム摂取量のチェック
日常のカルシウム摂取量は、カルシウム自己チェック表を用いて推定することができます。
カルシウム自己チェック表の各項目に対して0点から4点で採点し、その合計点数によって栄養状態が判定されます。
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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版.
東京, ライフサイエンス出版, p156, 2015
骨粗鬆症の治療には薬物療法、運動指導、転倒予防、食事指導が重要