エキスパートからのメッセージ

医師からのメッセージ~多くの脆弱性骨折の患者さんを救う
FLSの取り組み~

宗圓 聰 先生

そうえん整形外科 骨粗しょう症・リウマチクリニック 院長/一般社団法人 日本骨粗鬆症学会 前理事長

脆弱性骨折、なかでも大腿骨近位部骨折と椎体骨折は二次骨折リスクが高く1)、生命予後も悪い2)ことが知られています。例えば、大腿骨近位部骨折を起こした60歳以上の女性患者さんが直後に大腿骨近位部の二次骨折を起こす危険性は、骨折を起こしたことのない女性の16.9倍であることが報告されています1)。また、脆弱性骨折の患者さんを5年間追跡し、骨折の部位別に骨折後の死亡率を調査した結果では、椎体骨折と大腿骨近位部骨折の患者さんの死亡率は1年後でそれぞれ約30%、約20%、5年後はそれぞれ約70%、約60%でした2)
脆弱性骨折は早期に骨折治療ならびに骨粗鬆症治療の介入がなされなければ寝たきりや介護を必要とする生活を強いられてしまうことから、健康寿命の延伸のためにも二次骨折予防の取り組みは極めて重要です。

私は「原発性骨粗鬆症の診断基準」の改訂に向けた検討に、2000年度改訂時より委員として関わってきました。委員長代行として2012年度改訂に携わった際、二次骨折リスクの高い大腿骨近位部骨折と椎体骨折に対する積極的な治療介入を進めるべく、これまで原発性骨粗鬆症の診断に必要とされていた骨密度測定を行わずとも、脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折または椎体骨折)の有無によって診断ができるよう働きかけました。
こうした大きな潮流の源となったのは、2004年頃から度々目にしていた、特に高齢の脆弱性骨折患者さんに対する二次骨折予防の重要性やその手法の一つである骨折リエゾンサービス(FLS: Fracture Liaison Service)に関して示されたイギリスの論文でした。診断基準を変えることは苦労を伴うものでしたが、脆弱性骨折に対する骨粗鬆症の診断と治療がなかなか進まないことには危機感を抱いており、こうした海外のエビデンスは大きな後押しとなりました。

一方で現在、我が国の「原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準」では、この大腿骨近位部または椎体の脆弱性骨折があれば治療を開始することが定められている3)にもかかわらず、大腿骨近位部骨折後1年間の薬物治療率はわずか19%という調査結果があります4)。私は、医師の力だけでは成しえなかった脆弱性骨折の患者さんに対する骨粗鬆症の診断と治療は、多職種を含めたチーム医療であるFLSの取り組みこそが達成してくれるのではないかと期待しています。

FLSの活動は、多職種のメンバーがその専門性を発揮しながら自主的に患者さんに関わっていくチーム医療であり、その関わりの中で良い刺激を受けてスキルアップしながら患者貢献が叶う取り組みです。さらに、二次骨折が減ることによる手術件数の減少、適切な医療介入による合併症や死亡数の減少など、骨折治療に関わる医師にとってもメリットが大きいといえます。2022年4月には、この取り組みを評価する診療報酬(二次性骨折予防継続管理料1~3)も新設されたことで、経営側の理解も得やすいでしょう。
多くの脆弱性骨折の患者さんを救うFLSの取り組みは、非常に効率的であり、人口の急速な高齢化に伴い骨粗鬆症の患者数が増加を続けていることからも、社会にとっても大きな意義があります。

1) Johnell O, et al. Osteoporos Int. 2004, 15: 175-179.
2) Johnell O, et al. Osteoporos Int. 2004, 15: 38-42.
3) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015 年版.東京, ライフサイエンス出版, p63, 2015
4) Hagino H, et al. Calcif Tissue Int. 2012, 90: 14-21.

From Student Office

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